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ためにならない話

 

 半球型の屋根に守られたモノレールのプラットホールからゆっくりと人波に倣って改札に向かうと、階段を下りた途端にひゅるりと吹き込む十二月の風に冬の匂いが混じっていた。
 ストールに顔を埋めて洟を鳴らす。
 少し前までは、街は「何事も起きていない」平静を装った顔をしていたけれど、一日二日と過ぎるにつれ、黄昏に染まる街並みに影の色が濃くなるように小事が大事に、不安は無視を出来ない形に脹れ上がりつつある。
 ちらりと、改札の前に佇む人影を見やった。また増えた、と眇めた瞳に己の力不足に対する焦燥を滲ませた。どうしようもないことなのか。どうしようもないと、私が云っちゃいけないんじゃないかと。
 一日二日と過ぎるにつれ、一人二人と増えていく≪無気力症≫のヒトたち。彼らは路上生活者ではないのに、同じ駅で降りた乗客はその差にすら気付かない。
 気付かない、フリなのだろうけど。
 家族にだっているだろう。友達にだって居るはずだ。だからみんな心のどこで「明日は我が身」と分かってる。分かっているから無視をしている。
『こういう時は宗教が儲かるんだ』
 冷たく聞こえる声でそう云った先輩の横顔は思い出せない。あの時カレはどんな顔で、そんなことを云ったのか。声には何の感情も篭められちゃいなかった。ふうん、と返した私の相槌同様、きっとどうでもいいと思っていた。
 神頼み、か。分かる気はする。けれど神も仏も『ジブンの中』から出せるものでしょ。神様のようなジブン、天使のようなジブン、悪魔のようなジブン。あれは果たして本当に本物の神々なのか、実はちょっとずっと疑問に思ってた。ヤマトタケルとかサキュバスとか、ガブリエルとかルシファーとか?そういう所謂『メジャー所』の名前くらいは知っていたけれど、そもそもオルフェウスなんて知らなかったし、想像もイメージも持っちゃいなかった。なのに明らかに創造的な姿で現れるアレは。本物ってことに、なったりするのかな。
 でも仮に、例えば私がホンモノを喚べるとして、それで私が護られたことはあっただろうか。
 物理的には、YES。ほぼ毎夜、隠された時間の中で矛となり槍となる。けれど、ヒトが神様仏様と祈るのは、決して何かを攻撃しようとする時じゃない。
 うまく噛み合わずに頭上から落っこちようとする歯車から、必死に身を守るために、ヒトはそれまで信じていなかった存在に縋る。アホらし。
 必要な時にしか不確かな存在を信じないヒトも、信じる者しか救わないモノも、どっちもどっちで大キライ。
 そんな神も仏も信じちゃいなかった私に喚ばれる神様たちは、どんな心境なんだろう。やっぱりカレらは宗教で信じられているモノとは別なんだろうか。

「寒くないのか?」
 云うと同時に目の前に置かれた湯呑茶碗からは白い湯気が出ていた。
 腰より少し短い丈のウールのコートを脱いだ足が寒そうに見えたのだろう。帽子の鍔が影を落としている眉間に皺を寄せる顔は、元々厳めしいのに益々気難しい。
 春先から足しげく通う交番の、御世話になっている巡査さんだから、カレが別に怒っているわけでも呆れているわけでもないことは知っている。寒そうだ、というただの感想だ。
「慣れっこです」
 そもそも女子の制服は冬でもスカートだし、岳羽ゆかりや友人たちほど短くないとはいえ膝上5cmより短い。先生の目が光らないギリギリのラインを死守している。
「ジャージとか履いてる子もよく見かけるが、ああいうのはしないのか」
「ヤですよ、カッコ悪い」
 顔を上げずにぷう、と唇を突き出した。黒いバインダーの横で、たまに電卓を叩きながら黄色い付箋にペンを走らせる。
 封筒の中身を改めて確認をして、予定額を超えそうな「買い物リスト」を持ち上げてウンと小さく唸った。
「黒沢さん。コレ、ちょっと安くなりませんか?」
 遺留品のように写真と簡単な説明が書かれたリストを持って立ち上がると、巡査の広い背中に媚びた声を投げかけた。どーせ、無理って云われることは分かってるんだけど。
「こっちも慈善事業じゃないからな」
「こんな時大人は役に立たない〜って云うのに、安くはしてくれないんですよねえ。今ポロニアンモールだってセール中なのに」
 気安い態度で痛いところを突いてしまった、と心の中で反省をしたが、黒沢さんは意に介した素振りもなく、仕事の手を止めようとしない。
「桐条のご令嬢に都合をつけてもらえばいいだろう」
「それが出来たら苦労もやりくりも必要ないんですよ。まいっか、順平にはまた今度にしよっと」
 私だって本気で安くしてもらいたいと思っていたわけではない。あわよくば、というか、世間話みたいなもの。帽子の少年、伊織順平は苦手だって云っていたけれど、私はこの人のこと結構好き。
「……大丈夫なのか?」
「心配なら安くしてください」
「――アイツなら平気だろ」
 本人がいないところで随分な会話だ。あははと笑いながら、今日の「買い物リスト」を渡した。
 安くしてくれと強請ったけれどリストにはその品物の名前は書いていない。そもそも安くなんてならないことを知っているから当たり前だけど、黒沢さんにはちょっと意外だったのかも知れない。
 小さな付箋を見て、私が胸に抱えたバインダーを見やる。そして口端だけで笑うと、よいせと声を上げて立ち上がりながら「まったく、君はイイ女になるよ」と呆れたように云った。
「今でもケッコー、イイ女だって云われますけど」
 なんで黒沢さんとはこんな云い方をしてしまうのか分からない。取っつき難い大人と「仲良く」している子供特有の優越感めいたものかも知れないが、そんな私の言葉に黒沢さんはギョッと目を剥いた。あ、これは新鮮な反応。
「誰にだ」
「お父さんみたい。」
 ――お父さん、いないけど。
「……誰がだ」
「えへへ。あ、先輩です。真田先輩」
「明彦?」
 私はこの、黒沢さんの口から出てくる「明彦」という響きを好んでいる。彼を名前で呼ぶ人は他に二人知っているけれど、黒沢さんが発するそれは少し違って聞こえる。
 お父さん、とまでは云わない。けれど、彼が助けを必要とした際きっと尽力してくれる、甘えてもいいところにいる大人だと、その響きが教えてくれるのだ。
「明彦、なあ……あの泣き虫がそんなことを女子に云うようになるなんてな……」
 しみじみといった体で聞かせるようでもなく呟くと、黒沢さんは「アンティークな」電卓を叩いた。僅か数十センチの距離、微かな煙草を感じる。不快感を覚える程じゃない。大きな「買い物」は黒沢さん自ら仕事帰りに届けてくれるから、そのまま一杯お茶をしていくことも間々ある。流石に寮のラウンジでは吸わないけれど、外で立ち話程度の時は煙草を持っていることが多い気がした。とはいえ、真田さんの前くらいで、なんだけどね。
「コレと、あとそっちは持って帰ります。あとはすみません、また送ってもらってもいいですか?」
 自分の女性性を理解した上で云う言葉はなんともしたたかなものである。断れないことを分かっていて云っているんだ。黒沢さんのところへの「買い物」に私を選んだ真田さんにも、きっと私と似たような思惑があったに違いない。最初の頃こそ遠慮して、頑張って一人で持って帰ろうとしたものだ。それが十二月ともなれば――、
「まったく。すっかり味をしめたな」
「えへへ、黒沢さん優しいから好きです」
「はいはい」
 慣れ、か。
 大人なら、それが良いのか悪いのか教えてくれないかな。

 *

「あれ、帰ってたんか」
 交番からの帰り、待ち合わせをしていた定食屋さんでご飯を食べてから真田さんの部屋にお邪魔していた私は、随分と時間が経ってから一階のラウンジに降りた。
ガラスの仕切り越しに順平がラーメンを頬張りながら声を掛けてくる。それに「んー」と適当な相槌を打ちながら彼の座るテーブル前を通り、台所と呼ぶには大仰なキッチンへと向かった。
 ちゃんと髪を乾かしてこなかったから暖房の効いていないキッチンでは大分肌寒さを感じる。シャワーだけじゃ物足りないし、このまま大浴場でゆっくり湯船につかりたい気持ちもある。
 いつもと違う、けれど漸く少しずつ慣れてきたシャンプーがほのかに香り、冷蔵庫の戸に手をかけたまま動きを止めてしまう。
 大きな手も、あったかい感触も、先ほどまであった感覚が俄かによみがえってきそうで、誰に思考を読まれているわけでもないのに適当なことを考えて熱を散らす。
 あの人は本当に、ずるいヒト。
 溜息混じりに500mlの紅茶のパックとお菓子の箱を手にラウンジに戻ると、わっと瞬間的に湧き上がる声に迎えられた。
 声の主は主に順平のもので、ゆかりと美鶴さんが腰掛ける三人掛けの椅子を囲むように、他のS.E.E.Sの姿もあった。居ないのは真田さんと、コロマルの散歩に出ている天田乾くんだけだった。
「なんの騒ぎ〜?」
「ゆかりっち、選抜で個人に選ばれたんだと!」
「選抜って、あ。弓道? 凄い!」
 全国高等学校弓道選抜大会、とかそんなカンジのタイトルをゆかりの口から聞いた覚えがある。
「別に、凄くないよ。二年だし、そろそろかなって云われてたから」
 口ごもるゆかりは照れ臭そうで、自分のことのようにはしゃいでいる順平に「なんであんたが嬉しそうなのよ」と猫目を眇めて鬱陶しそうにしていた。一席空いていた丸型の椅子に座ると、順平までといわずともすっかり表情を和らげている美鶴さんを見つめた。
「ふふ、そんなに謙遜することもないだろう。たまたま主将と話す機会があって色々と話を聞いたが、随分と褒めていたぞ。学年なんて関係ない、ゆかりの実力だ」
「もう、美鶴先輩まで。大会に出るってだけで、まだ結果残したわけじゃないんですから」
「いやぁ〜それは問題ないっしょー!」
 私と山岸風花の座る間で莫迦に大きな声を出した順平は、ぶんぶんと手の平を左右に振って大仰に肩をすくめた。
「だってゆかりっち、動くシャドウ相手に弓で戦ってんじゃんよ!弓道ってあれだろ、別に馬乗るわけじゃねーんだろ? 動かない的相手ならラクショーっしょ!」
 一瞬、ゆかりの表情が曇った気がした。
 普段から順平が喋る時はどことなく鬱陶しそうなポーズを取っているけれど、この時はそういう冗談めいた色が見られなくて、思わず口をはさんだ。
「嬉しくない?」
「……そりゃ、個人に選ばれるのは嬉しいよ。自分でも凄く上達したって思ってた。滅多に的外さなくなったし、心得として習ってきたことが全部実を伴ってるって感じる。けど、」
 云いよどむ姿には困惑が見える。視界の端に入る美鶴さんも真剣な顔をしていて、流石の順平も茶化したりしない。
「けどね、もしシャドウがいなかったら、タルタロスがなかったら、私こんな上手くなってないと思う。前まで柔の弓だって云われてたのに、今じゃ剛の弓だって云われんだよ? 戦いで身につけた弓だから、本気でやるといつも、誰かしらに怖いって云われるの。ヤなんだよ、そんなの、けどもう遊びじゃやってらんないんだもん」
「ちょ、ゆかりっち、気負い過ぎだって」
 ゆかりの気持ちが分からない私たちではない。私たちにしか分からないだろう、とそのくらい云える。
 なんの部活に所属しているわけでもないけれど、バッティングセンターで相当飛ばせるようになったと云っていた順平だって少し違えばゆかりと同じことを考えたかも知れない。
「とにかく、私、個人では出ない。そんなことしてる場合じゃないでしょ」
「あ、おいゆかりっち!」
 勢いよく立ち上がったゆかりは足早に三階まで上がっていってしまった。
 出ない、という判断は彼女の本心から云われたことじゃないだろう。部活を遊びと称したけれど、いつだって真面目に取り組んでいたことはここに居る誰もが知っていることである。その真摯さ全てが、シャドウ討伐に関係していたとは思えない。
「……有里」
 ふう、と溜息を吐いて腰を上げた私を、美鶴さんが伺うような声で呼ぶ。
 任せてくださいとか、私が行きますとか、そういう「リーダー」っぽいことは云いたくなかったから、私は黙って頷くだけに留めた。

 *

 扉を開けたゆかりは、そりゃもう、バツが悪そうな顔をしていた。
「もう。ほっといてくれていいのに」
「そう思ったんだけどね、お節介でごめん」
「……ばか」
 暖房をいれたばかりの部屋は未だ暖かくはなかったけれど、クッションを抱えてホットカーペットの上に落ち着く。じっと、体育座りをして黙っているゆかりは、まるで何かを吹っ切れようとするかのような溜息を零した。
「くだらないこと考えてるって、分かってんの。誰に云わなきゃバレないことで、いくらでも濁す方法はあるのに、普段からどうしたって、タルタロスのこと忘れられなくて、戦って、血を流したから身についたんだって、もしかしたら、私、誰かに知って欲しいのかも知れない、って」
 静かにそう語るゆかりがかぶりを振ると、ぱさりと柔らかな髪が揺れて顔を埋めてしまったクッションの上に散る。
「真田先輩みたいに、最初っから強くなるために始めたことだったなら、こんな風に想わなかったのかな」
 くぐもった声に、私は無意識の内に息を詰めていた。
 ゆかりは知らない。順平も、風花も、アイギスも天田くんも。真田さんが力を求める理由は、美鶴さんと荒垣さん、あと黒沢さんしか知らないことだ。
 だから悪気があったわけじゃない。ゆかりの言葉に深い意味はなかっただろう。それでもどうしたって、私は彼の肩を持たずにはいられなかった。
「真田さんだって、力を求める必要が無かった方が、幸せだったんだよ」
 幼い頃の、非力だった自分に対する自責の念が「強さ」に執着をさせている。命を賭しても守りたかった肉親を喪い、もはや何も手に持っていないのにそれでももう二度と後悔したくないなど、強さを求めたところで喪った人が戻ってくるわけじゃないのに、自分を戒めるがの如く拳を振るい続けた人。確かに彼は、ゆかりのように強くなることに迷いなど無いだろうけど、それでも彼が力を求めることに私は肯定的にはなれなかった。
 ただのエゴ。私がこんな風に想うことを真田さんが望んじゃいないことくらい知ってる。分かってる。けどイヤなものはイヤだった。
「たまに、全部取り上げてちゃいたくなるもん。」


「――なんか、ごめん」
「あ。や、私もごめん。」
 ハッと我に返れば、なんともいえない空気が二人の間に流れていたことに気付いた。
 友人を励ましに来たのに「彼氏」のフォローをするなんて、これリーダー失格どころか友達失うパターンじゃないの。なにしにきたの殴って欲しいのってかんじ。本当にごめん、殴っていいから。っていうか殴って。反省。
「……今日さ、黒沢さんのトコ行って、みんなの武器とか買って、そゆ、慣れる必要が無いことに、慣れているってことに、イヤだなって、私も思ったんだ」
 ゆかりに共感しようと思ったけれじゃなかったが、丁度、自分も普段は意識しない「慣れ」に引っかかるものを感じたことを思い出した。
「こーゆーことがなかったらみんなとここまで仲良くなってなかったし、それ自体は単純に良かったし、んー……難しいけど、悩むことはあっても私だけじゃないと思うから、がんばろーかなって思える、かな。ありきたりだけどね」
「それは分かってんだけどさーっ」
 体育座りをした体をぐっと伸ばすと、大きく天井を見上げてしなやかな首筋を晒した。部屋着を身につけて寛いだ格好をしているゆかりの白い肌には、いつもつけているハートモチーフのチョーカーも見当たらない。
「なんかすっごいアホらしくなってきた」
「そうだね」
「ちょっと、あんたの所為でもあるんだからね」
「そうだねぇ」
「……ってゆーか、さぁ」
 もうすっかりぬくまった部屋は居心地が良く、毛足の長いピンク色のカーペットをさわさわと手の平で撫でていると、伸ばしていた体を小さく畳んですると近づいてきたゆかりが、ひそりと声を潜めて間近から瞳を覗いてくる。
「やっぱり、真田先輩と付き合ってるワケ?」
「は」
「は、じゃないわよ! どーもここ二ヶ月くらい急に距離近づいたなーって思ったけど! クリスマスとか先輩が教室に迎えにきたけど! あれやっぱ彼氏ヅラしてたってことでいーわけ!?」
 ああもう凄い剣幕。何、何で私こんなに責められてるの。っていうか責められんの?ゆかりも真田さんが好、いやそれは無いわ。ゆかりはどっちかっていうと美鶴さんの方が好きだし、ああいやそういう意味じゃなく。……もしかしたらそういう意味でもあるかもって思わなくもないけど、ゆかりの好みはああいう落ち着いた年上であって、妙に子供っぽかったりどこかズレてる真田さんじゃない。絶対に違う。
「い、云ってなかったっけ……?」
「聞いてないわよ!」
「ご、ごめん……え、反対とかじゃない、よね?」
 空気に鬱々としたものが無くなったのは良い傾向で、それはゆかり自身が気を回して空元気を見せてくれているからだと理解している。でも、この調子に乗るのが友達だろう。
 冗談のような会話だと、思いながらも一番の友達の判定を訊くのは中々怖い。
「……反対するワケないじゃない」
 口角を引き攣らせていた私は、ゆかりの、思いの外真剣な声に視線を動かすことも出来なくなった。
「あんたって、女子だけど順平なんかより全然強いし、ペルソナも沢山使えてチームで一番頼りになるし、色んな部活とか、同好会とか、そーゆーの掛け持ちしてバイトまでして、ホント、ナニモンなのって思うくらい、凄い子だって思うよ」
 ああ、それは随分と買い被られたものだ。
 むにゃりと笑いかけたが、ゆかりが更に続けるからやっぱり、何の表情も作れなかった。
「でも、だから、どんな危険だって真っ先に向かっていくし、怪我してるのに私たちの心配ばかりするし、こっちが頼っても、あんたが頼ってくれることあるのかなって、たまに凄い、不安になるんだから」
 力が抜けても、迫るゆかりの顔からは目を逸らせない。
「……真田先輩なら、突っ走りそうになったら力尽くでも止めてくれるだろうし、強いから、も甘えられるよね」
 ふわりと、笑みを零すゆかりの顔は優しい。
 慈愛の眼差し、というのはこういう形の瞳を謂うのだろう。
「真田さんは、多分私と一緒に突っ走ると思うけど……」
「あーそうだ! だよね、ダメだあの人!」
「あははは、ダメだね!」
 は、と最後に漏れた音に思わず水気が混じりそうになった。
 ゆかりを励ますつもりで追ってきたのに、私の方が力を貰ってしまっている。
「ねえ、馴れ初めとかあるんでしょ? 今度じっくり聞かせてもらいますからね!」
「えええ、ヤだよ!」
「逃がさないんだから! 風花や美鶴さんも呼んで皆で囲んでやる!」
「やーめーてーッ!」
 がくがくと揺さぶられながら笑っていると、今までに歩んできた道に対する後悔も、これから起きることへの不安も、多分、きっと、乗り越えていけるような気がした。
 後悔も不安も、そういうものに慣れることの危うさも、自分ひとりが抱えているものではない。私だけじゃないと、思えることがこんなに安心するなんて思わなかった。一人で生きてきたとはいわないけれど、誰にも頼りたくないと思っていたのに、彼氏も友達も、否応なしに甘やかすから、私はどんどん弱くなっていく。
 弱くていいんだと、思えてくる。
「ゆかり」
「んー?」
「真田さん、結構キス上手いんだよ」
「そーゆー話は聞きたくない!」

映画良い出来で良かったですね〜。終わる前に10回目行っておきたいです(´∀`)
リハビリしたらゆかりっち愛で過ぎて真田先輩出し忘れる体たらく。